淡中 圏の脳髄(永遠に工事中)

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Πάντα ῥεῖ

鏡 もしくは ドッペルゲンガー

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鏡 もしくは ドッペルゲンガー

 街を歩いていたら、目の前から、自分そっくりな男が歩いてくる。これは何としたことだ、と一瞬考えるも、何だ鏡か、と結論づけるのも束の間、よくよく見ると、もしその男が鏡の像なら、鏡面があるはずのあたりを通りの人々は何事もないように通り過ぎていく。もしかしてこれはやはり鏡ではなく、自分そっくりの男なのであろうか、あの世界に三人いると言われている伝説のそっくりさんなのであろうか。それではそんな男が一体何のようなのだろうか。もしかしたら私は一卵性双生児で、双子を産んだ女はは畜生腹だという俗信と、将来跡目争いの原因になりかねないという現実的理由により、双子の片割れは秘密裏に表舞台から抹消され、鉄仮面をかぶせられ、地下牢に閉じ込められていたのが、いま抜け出してきて、「おまんら、絶対に許さんぜよ」とばかりに、私に復讐しようというのだろうか。それとも噂に聞くドッペルゲンガーという奴なのかもしれない。ということは私はもうすぐ死ぬのか、それではDVDだけは買っておいて暇なときに見よう見ようと思いながら積んでおいてしまっていた『1900年』も『輝ける青春』も、楽劇の『ニーベルングの指輪』も結局は見ることはないのか。ところでゲッペルドンガーって何だったっけ? と考えている間も、私の両足は順調に右左右左と交互に出続け、着実に相手との距離を縮めている。もう無駄なことを考えている時間はない。進むか止まるか、はたまた退くのか、決断を迫られているのだ。だが、一体どうすればいいのだろうか、全く私には分からない。ああ、こんなことなら、やっぱり部屋から一歩もでなければよかったのだ。「気をつけたまえ。この国は今、罠だらけだからな」という鳥のアドバイスにしたがっていればよかったのだ。今すぐにでもあの居心地のいい部屋に帰って、パソコンの前に座ってニコニコし続ける生活に戻ろう。しかし、人ごみに背中を押された私は、もう不気味な自分そっくりの男の前に召し出されており、いまさら引き返すことも出来ない状態に追い込まれていた。その時、私は奇妙なことに気がついた。

 一体何が起こってしまうのかと、身を庇うように両手を挙げると、同時に目の前の男も両手を挙げた。私は不思議に思って右手を上げると、相手は左手を上げた。そしてその手を相手に向けて伸ばすと、相手も左手で同じようにする。そして二つの手が触れたとき、私は真実を知った。やっぱりこれは単なる鏡で、目の前の男も鏡に映った自分自身の胸像にすぎず、ただ単に周りの人達がみな、たぶん馬鹿だからとかそんな理由なのであろうが、そこに鏡があることに気付かずに、恥知らずにも鏡像を乗り越えて向こう側の世界に渡ってしまっているだけなのだった。

 立川 志の輔「ガッテンしていただけたでしょうか?」

 山瀬 まみ「ガッテンガッテンガッテン!」

 これで疑問解消万事解決、神は天にいまし、全て世は事もなし。

解説

ドッペルゲンガー

エロゲンガー

何を思って書いたのやら

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