リミックス小説宣言
その日私は深夜遅くまでパソコンの前で作業した後、歯を磨いたかどうかも覚えていないような状態で床に就いた。 枕元には、寝る前に読もうと思っていた数学や哲学や歴史学などの本が積みあがっていて、地震が起きれば確実に私を押しつぶそうと構えている。
そんな私を殺そうとする精神的砦に囲まれて、心地よい泥のような眠りの中に沈みこもうとしていたとき、何かが私の精神を引っ掛けて、現へと釣り上げた。
物音だろうか。
分からない。何やら騒がしいような気がするが、物音はしない。騒ぐのは私の心だろうか。そう思うと、天井を見上げる私の顔の三方を囲んだ本の山も、いつになく落ち着きがない。 目に見えない揺れ方でグラグラしている気がする。 これも私の心の投影か。揺れているのは私の心か。
私は布団をはねのけ起き上がった。 そして物音の元へ走った。そこは書庫だった。
私はその光景に目を疑う。 本が、本たちが、乱交していた。 普段の物静かな様子をかなぐり捨て、本たちは獣のように咆哮しながら、絡みついていた。 渇いた表面から想像もつかないように粘液を潤ませ、お互いをむさぼりあっている。 ページを開いて相手を挟んでは、摩擦しあって、快楽を発生させあっている。
あまりのことに私は眩暈を起こし、まず目の前の事態を否定し、夢と断定し、目覚めようと努力しながら、やはりその光景に魅了された。 興奮した。 そう、性的に興奮し始めていたのだ。 私は服を脱ぎながら、そのくんずほぐれつの中に飛び込んだ。 そして手当たり次第本を抱きしめて、ページを開き、その秘められた谷間に欲望を吐き出した。 本たちは私の精を喜んで受け入れ、その体内に新しいコンセプトを受胎する。 私の目の前で、書物と書物が新しい書物を産んでいく。キメラのような、奇怪な子どもを。 私は生まれたばかりの幼い書物を引き裂かんばかりに愛した。そして、私は私の子どもを犯し、私の孫を犯した。 そして私も何冊もの本に体内を貫かれ、穴を押し広げられ、私の中に彼らの内容を流し込まれた。 私はたちまち妊娠し、何冊もの本を一夜にして産んでは流した。
歓喜の夜。歓喜の書庫。 それが今あなたが見ているここだ。