女中になった雌鶏
昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。そこへ狼がやってきてたずねました。「お爺さん、あなたはどうして泣いているのですか?」お爺さんは答えました。「これが泣かずにはいられましょうか。わたしはお婆さんと二人で暮らしています。家では、雌鶏が女中として働いていますが、その雌鶏が籠いっぱいの卵をわたしたちに生んでくれました。わたしは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割ることができませんでした。婆さんも何度も卵を割ろうとしましたが、割ることができませんでした。そこへ小鼠がやってきて、尻尾を振ると、卵は割れてしまいました……」お爺さんは泣きました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。……それで狼も声高に吠え立てました。そこへ熊がやってきてたずねました。「大上さん、きみはどうして吠えているのです?」狼が答えました。「これが吠えずにいられましょうか。昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。それで狼のわたしも吠えているのです……」すると、熊も唸り声をあげました。そこへ、大鹿がやってきました。「熊さん、きみはどうして唸っているのです?」熊は答えました。「これが唸らずにいられましょうか。昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。狼も吠えました。それで熊のわたしも唸っているのです」すると大鹿は角を下げながら、自分の角を折ってしまいました。そこへ、召使女が水を汲みにやってきました。「大鹿さん、あなたの立派な角はどうしてしまったのですか?」熊は答えました。「これが角を折らずにいられましょうか。昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。狼も吠えました。熊も唸りました。それで大鹿のわたしも自分の角を折ったのです」すると召使女は悲しみのあまり持ってきた桶を叩きこわしてしまいました。女が主人である書記のもとに帰ると、書記はたずねます。「水を汲みにいったのに、持っていった桶はどうしてしまったのだ?」召使女は答えました。「昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。狼も吠えました。熊も唸りました。大鹿も自分の立派な角を折りました。それでわたしも持っていた水くみ桶を叩きこわしたのです」すると書記は帳簿を引き裂いてしまいました。そこへ僧侶がやってきます。「書記さん、なぜ帳簿を引き裂いたのですか?」書記は答えます。「昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。狼も吠えました。熊も唸りました。大鹿も立派な角を折りました。召使女も水くみ桶を叩きこわしました。それで私も帳簿を引き裂いたのです」それを聞いた僧侶は悲しみのあまり教会を焼き払いました。僧侶は警察に捕まり、尋問を受けました。「なぜ教会を焼き払ったのだ」僧侶は答えます。「昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。狼も吠えました。熊も唸りました。大鹿も立派な角を折りました。召使女も水くみ桶を叩きこわしました。書記も帳簿を引き裂きました。それで私も教会を焼き払ったのです」それで警察官たちは絶望のあまり、すべての犯罪者たちを町に放ちました。この混乱は党の上層部の耳に入ることになりました。大規模な調査団が組織され、徹底的に調べ上げられました。その報告書が党の最高指導者のもとに届けられました。そこにはこう書いてありました。「熊さん、きみはどうして唸っているのです?」熊は答えました。「これが唸らずにいられましょうか。昔、一人のお爺さんがおりました。昔、一人のお婆さんがおりました。お爺さんとお婆さんは一羽の雌鶏を女中にしました。ある日、雌鶏は籠にいっぱいの卵を生みました。お爺さんは何度も何度も卵を割ろうとしましたが、割れませんでした。そこへ、一匹の小鼠が駆け寄ってきました。小鼠がしっぽを振ると、卵は割れました。……お爺さんは泣きだしました。お婆さんも泣いてしまいました。雌鶏はくっくっと鳴きました。門がぎしぎし鳴りました。木屑が舞いあがりました。犬は吠え立てました。鵞鳥はがあがあ鳴きました。人々は大騒ぎしました。狼も吠えました。熊も唸りました。大鹿も立派な角を折りました。召使女も水くみ桶を叩きこわしました。書記も帳簿を引き裂きました。僧侶も教会を焼き払いました。警察官たちは犯罪者を町に放ちました」これを読んだ党の最高指導者は、悲しみのあまり、核ミサイルの世界各地への一斉発射を命じました。敵国からも人類を何百回も滅ぼせる量の核ミサイルが打ち返されます。そこへ、円盤に乗って別の星からのお客さんがやってきて、たずねました。「どうして、滅びてしまったのですか。昨日まではあんなに栄えていたのに」世界は答えます。「昔、一人のお爺さんがおりました。……