淡中 圏の脳髄(永遠に工事中)

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Πάντα ῥεῖ

緊急告知!影から忍び寄る忍者

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緊急告知!影から忍び寄る忍者

 私が筆を取ったのは、もしかしたらこれを読んでいる皆さんが、世界がどのようにできているかについて(私に言わせれば)驚くほど無知であることに気づいてしまったからであります。あなた方はおそらく世界は見たままそのもののようにあると信じ込んでしまっているのでしょう。しかしそれはあなた方が騙されているからなのです。あなた方だって不思議に思ったことがあるでしょう。どうして世界はこのようにあるのか。どうして戦争はなくならないのか。どうして人々は争い続けるのか。どうして最近自然災害が多いのか。どうして消費税は高くなるのか。どうしてわけのわからない勧誘電話ばかりかかってくるのか。どうしてガキは私の言うことを聞かないのかetc。

 それがわからないのは、世の中の仕組みについて無知だからです。これから私の書くことについてよく考えればすべてが、目からうろこが落ちるように納得できるのです。それは、世の中を裏から操っている輩がいるということです。「そんな馬鹿な」と思われた方もおられるでしょう。しかしそれは真実なのです。「では、それはいったい何者なのだ」と思われる方もおられるでしょう。それはフリーメイスンでもイルミナティでもありません。それは実は忍者なのです。

 皆さんもご存知のとおり、世界の歴史の裏舞台には必ず忍者がいました。ギリシャ神話に出てくるヘルメス、ローマ神話のメリクリウス、北欧神話のロキなどは、古代の忍者だと思われます。また十字軍にアサシンとして恐れられた、暗殺集団イスラム教二ザール派(アサシンという言葉は、彼らが暗殺時に使用したといわれているハッシシつまり大麻に由来する)も著名な忍者たちでしょう。さらに日本では奈良時代に役の小角が現れ、時代が下れば伊賀甲賀戸隱真田風魔の忍者黄金時代が来ます(この中で今もつづいているのは戸隠流だけである)。服部半蔵や猿飛佐助、霧隠才蔵の活躍を聞いたことのある人も多いでしょう。そのころヨーロッパではパラケルススやアグリッパ等が活躍しています。どのような場所にしろ、動乱期には忍者の活動が表面化するものです。たとえばフランス革命期には、色事師カザノヴァやカリオストロ伯爵、そして女装したスパイにして一流の剣士デオン・ド・ボーモン、もちろんカスパ−・ハウザーなどが忍者として活躍している。ことほどさように忍者が裏で暗躍していない時代はないのです。

 そしてもちろん、今現在だって例外ではないのです。いや、むしろ今の時代ほど、忍者が活躍できる時代はないのでしょうか。どんどん複雑になる社会のシステム。一般人にはどのような原理で動いているのかもわからない機械類。高度に進化したコンピューターネットワーク。非人間的な軍事テクノロジー。ますます隠れている部分は増えているのです。隣に住んでいる人間が何をしているのかもわからない、この匿名社会に忍者の潜む隙間は数知れないほどあるのです。われわれがそれに気づいていないだけなのです。

 しかし、忍者も物理的な体を持つ人間です。何の証拠も残さないことは不可能です。だから、もしあなた方が、自分の周りで起きていることを、もっと注意深く見たならば、ニュースに出ていることをもっと注意深く見たならば、必ずや忍者の活動の証拠が見えてくると思います。そこでまず、私が今まで発見した忍者が残したとしか考えられない証拠の数々を披露したいと考えています。

 世の中には、UFOといわれているものが存在します。正体不明の空を飛ぶ物体です。俗に宇宙人の乗り物といわれたりもしますが、これは決してそんなものではありません。あれは実は忍者の乗り物、もしくは忍者自体なのです。UFOが突然現れたり、突然消えたり、高速でジグザグ飛行したりするのがその証拠です。忍者以外にそのようなことをできる存在はありません。そしてさらに、UFOから降りてきたところを目撃されている、宇宙人といわれている生物は忍者の作り出した、ホムンクルスなのです。よく知られているように、アメリカでは、年に何人もの人々がUFOにさらわれて、人体を手術されたり、体内に異物を埋め込まれたりしているのです。また一時期注目された現象に、キャトルミューティレイションがありました。家畜の内臓や血液が何者かの手によって抜き取られたのです。忍者はいったい何のためにそのようなことをするのでしょうか。もしかしたらそれは何らかの生物兵器を作るための実験だったのかもしれません。しかしなぜアメリカは、そのようなことを放置しているのでしょうか。それはアメリカが忍者から技術の提供を受けているからです。ステルス機は明らかに忍者の技術を使用しています。以前にはアメリカやソ連も、忍者の技術を墜落したUFOから得ようと画策したのですが、忍者には鉄の掟があり秘密を知られるくらいならすべてを抹消して自ら死を選ぶのです。だからアメリカは取引をするほうが合理的だと考えたのです。アメリカやNASAは忍者とコンタクトしていることを国民に隠しているのです

 またミステリーサークルも忍者の仕業に違いありません。あれはきっと何かの暗号に違いありません。忍者は古来さまざまな暗号技術を発展させてきました。忍者文字や解体文字などは有名でしょう。解読は私自身成功していないのですが、いつの日か奴らのしっぽをつかんでやりたいと考えています。

 夏になると必ずテレビで特集を組むものに心霊写真があります。あれはインチキ心霊評論家にいわせると、死んだ人間の霊が写っているのだそうだが、素人が何をおっしゃる。あれは、修行の足りない新米忍者が移動の途中に写ってしまったものに決まっていましょうが。忍者があまりにも速いスピードで動いているのでぼやけてしまっているのです。ちなみに忍者の進路の近くに人が近づき過ぎると、その付近に真空ができ、皮膚が切り裂かれます。しかしあまりに鋭すぎるために、痛みすら感じません。これがかまいたちです。

 そもそも心霊現象といわれているもののほとんどすべては、実は忍者現象なのです。ポルターガイストは忍者がどこかに隠れてものを投げたりゆすぶったりしているのです。私の考えではポルターガイストが起こった場所の近くには、忍者の基地が存在しているのです。それでその近くに人が住むと、怖がらせて立ち退かせようとするのではないでしょうか。火の玉はかの有名な火遁の術に違いありません。人体自然発火現象(SHC現象)も然りです。さらに言うと、幽霊も忍者に相違ありません。何の目的があるのかは、私にもよくわからないのですが、あれは忍者の変装なのです。

 忍者は時にさまざまな姿に変装します。戦国時代の忍者も「七方出」と呼ばれる、虚無僧、出家、山伏、商人、放下師(手品師のようなもの)、猿楽氏、常の形(つねのなり、つまり農民や武士の格好)、の七種類の変装を使い分けたという。現代の忍者はさらに多くの姿に変装します。イエティやビッグフッド、ネッシーなどを探しても見つからないのにはちゃんとしたわけがあるのです。あれはみな忍者の変装だったのです。ネッシーの写真は自分のいたずらだといったおじいさんは、彼自身忍者だったのか、それとも忍者に記憶を操作されたのか、それも今では確かめようがありません。

 さてこのように、現在の忍者の活動について書いてきました。しかしここまで一言も触れなかったことがあります。それは忍者の最終的な目的、つまり忍者はそもそも何のために活動しているのか、ということです。そのことについて最後に触れましょう。しかし私自身もそのことについて確証があるわけではありません。しかし私にわかる範囲のことをこれから書きます。

 最初に忍者の活動は古代にさかのぼれる、ということを書きました。しかし具体的にどれくらい前のことなのかは、まったくといっていいほどわかっていません。だが、もしあなたがたが想像力の翼を広げるならば、神話時代、いやそれ以前にも忍者のいた形跡を発見することができるかもしれない。たとえば、オーパーツと呼ばれるものをご存知だろうか。Out Of Place Artifactsの略であり、その時代には存在し得ない工芸品のことです。いい例が、コソの点火プラグと呼ばれるもので、これは地中から発見され、表面についていた化石から50万年前のものと推定される点火プラグによく似た加工物です。セラミックでできていて、ダイヤ製ののこぎりの歯がぼろぼろになるほど硬かったといいます。またコロンビアの黄金ジェットや水晶ドクロ、なども有名なオーパーツです。これらのものは、そのような昔にも忍者がいたことの証拠ではないのでしょうか。また恐竜の足跡とほぼ同じ頃につけられたと思われる人間の足跡や、三葉虫を踏んづけた人間の足跡も見つかっています。これらは、何億年もの昔から忍者がいたことの証拠ではないでしょうか。そうです、それほどの昔から忍者は存在したのです。おそらく恐竜が絶滅したのは忍者の仕業だったのです。しかし、その気が遠くなるほど長い間、忍者はあくまで裏の存在でした。忍者はあくまで主君の命令によって動くものでした。しかしここに来て忍者の動きが急に活発化し、しかもその動きには何か不穏なものが感じられます。もしかしたら忍者たちは、その長い歴史の中で、初めて支配のための道具から、自ら支配するものへと、利用されるものから、利用するものへと、変わろうとしているのではないでしょうか。彼らはとうとう全世界を手の中に収めてしまうほどの、強大な力を手に入れたのではないでしょうか。機は熟した、と彼らは考えているのでしょうか。そうです、彼らの活動は彼らの全人類支配のための準備なのです。アメリカやロシアでさえ彼らの真意には気づいていません。彼らを利用しているように思っていても、実際には利用されているだけなのです。そして彼らの思い通りに、泥沼の戦争にはまり込み、徒に世界を混乱に陥れてしまっているのです。経済もまた、いまや忍者の手中にあります。彼らは株価や物価の操作など、朝飯前にやってのけてしまうのです。マスコミにも彼らの触手は伸びているのです。かれらはテレビや他のメディアを使って、さまざまな信号をわれわれの無意識に送りつけています。それによって、人々の心をすさませ、社会を根底から切り崩そうとしているのです。また食品や医薬品の中にさまざまな薬を混ぜ、われわれを実験台にしていたり、いつの間にか個人情報を盗んでいったり、気がつかないところでわれわれの生活も脅かされているのです。

 これは実に恐ろしいことではありませんか。コントロールの利かなくなった力こそ、恐ろしいものはありません。われわれはこのままなすすべなく、忍者に支配されてしまうのでしょうか。

 そんなことはありません。われわれにも対抗手段はあります。それにはまず、敵を知ることからはじめなければいけません。まず忍者の歴史を学びましょう。参考書は、杉浦茂著『猿飛佐助』から始めるのがいいでしょう。続いて、新聞などに目を光らすことです。現代の忍者がどのように活動しているかに情報を収集しましょう。さらには自分の周りにも忍者を探します。忍者はどこにだっています。注意深く探せば必ず見つかるはずです。先日も私は駅で、ほとんど隙間のない人ごみの中を、すさまじいスピードですり抜けてゆく女性を見かけました。先ほどまで隣にいた彼女が、少し後にはもうはるか彼方にいるのを見たとき、私ははっと気づきました。彼女は忍者だ、間違いない、と。さらにはこんなこともありました。私が歩いていて、道が橋にかかろうとしていたとき、妙なものを見つけたのです。コンクリートから鉄製の筒が突き出しているのです。私はすぐに理解しました。これは忍者がコンクリートの中に潜んでいるに違いない。私は中を覗こうとしてみましたが、どうも忍者はすでにどのような手を使ってか、逃げてしまった後だったようです。ことほどさように、忍者は世の中に跋扈しております。皆さんも修行しだいで忍者の姿が見えるようになるでしょう。

 そして最終的にはこれを呼んでいる皆さんも、立派な忍者になれるのです。今まで説明してきた悪の忍者ではなく、彼らに対抗する正義の忍者に。もし皆さんが忍者を見ることが出来るようになったら、それは忍者としての素質があるということです。そこまで自分が到達したと感じましたら、ぜひとも私のところまでご連絡をください。何を隠そう私も忍者なのです。私が忍者になるための本格的な手ほどきをしましょう。

 しかしその私ですら、奴らと戦うにはどうしても仲間が必要なのです。最近身の回りに奴らの魔の手が迫ってきていると強く感じます。これは確信です。私自身忍者だからわかるのです。先日も町で仲間の忍者が近くに潜んでいるのを察して、小声で彼と話していたところ、一見通りすがり風の中年の女性がこちらをにらんでいることを感じたのです。あれは絶対に敵の変装です。近所の主婦は大体敵の忍者とすりかわってしまいました。そしていつ私の命を狙おうかと時々集まっては話し合いをしているのです。このパンフレットを作ること自体、大きな賭けでした。場合によるとこれは彼らの行動を早めてしまうかもしれません。しかし私は、これを読んでいる皆さんを信じています。必ずや、私に協力してくれると。

 ともに戦うために、ともに忍者となりましょう。全国の忍者予備軍よ、立ち上がれ!

Ninja
著者近影

解説

文章に起こしたのは大学に入ってからだが、ネタ自体は高校の頃の馬鹿話から。

当時は、TVタックルの超常現象スペシャルとかトンデモ本シリーズとかが好きで、友人としょっちゅう超常現象について語り合っていた。

直接の発端は、プラズマや霊魂など、「それで全てのものを説明できる原理」を「黄門様の印籠」と呼んで、そういうものをもっと集めよう、という話だった。

その中でのベストヒットが「忍者」だったのだ。

あと「ことほどさように」という言葉から、「あ、この頃種村季弘にはまったんだ!」とか分かるのが、自分では面白い。

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