淡中 圏の脳髄(永遠に工事中)

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ミネラル

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ミネラル

 夜のバー。俺が絶望に打ちひしがれて、ちびちび飲んでいると、

 「やっぱあんた、ミネラル足りてないんじゃない?」

 と女が言ってくる。意味が分からないので、

 「そうかなあ」

 と適当に受け答えていると、

 「あたしがあんたのミネラルになってあげよか?」

 とくる。ますます意味が分からないので、

 「そうなのかなあ」

 と答えた。次の朝目覚めると、もう五月だと言うのにやけに寒い。しかも、万年床のせんべい布団が浮き上がって、体との間に大きな隙間が出来ている。

 一体何だと思って起きあがると、俺の横で布団が大きく膨らんでいる。人が入っているというより、なんだかちょっとした仏像でも布団で隠しているような塩梅だ。

 その布団をめくって中身を検めると、それは人一人サイズの岩だった。

 俺は昨日のことを思い出しはじめた。女は俺に負けず劣らず酒に酔っていた。酒の勢いで女を抱くのも問題だが、酒の勢いでミネラルになるのも相当問題だ。確かにミネラルってのは、鉱物って意味だが、そういうことではなかろう。

 腕を伸ばして手を触れると、ただでさえ冷えた室温よりもさらにひんやりとしていた。その手触りを確かめていると俺はなんだか意味不明な罪悪感に襲われて、顔が熱くなるのを感じ、恐々と舌を差し出してぺろりと一舐めしてみた。

 塩辛かった。

 その日の帰り、俺はホームセンターでやすりを買って来て、その晩から天ぷらを塩で食い、塩を肴に酒を飲むようになったのだ。

解説

この主人公が昨晩のことをおぼろげにしか覚えていないように、私もなぜこんな小説を書いたのかおぼろげにしか覚えていない。

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